放課後、俺は向日葵と、文化祭のコンクールについて話そうと思い、速攻で教室を出た。
五時間目の取り決めでは、俺たちのクラスはカフェをやることになった。が、ほとんどの人が、大学にスカウトされるための部活で忙しく、やりたい人だけやる、という形だったので、俺は準備だけはして、当日は何もしなくてよくなった。
三人も、どうやら準備はするものの、当日は何もやらないらしい。
「向日葵!」
俺が音楽室に飛び込むと、ピアノの椅子に座った向日葵は、体をビクッと震わせた。
「び、びっくりしたー。どうしたの、そんなに慌てて?」
俺は、すぐにコンクールの事について話そうとしたが、そこで、あの耳の聞こえない男の子や、小島先生の不審な態度を思い出し、「いや…」と、思わず躊躇した。
「…向日葵ってさ、なんか悩みがあったりする?」
前に聞いたときは、誤魔化された質問。向日葵の顔が、一瞬大いに戸惑った表情になる。
「な、なに、急に?ないよ、何にも。私の性格知ってるでしょ?どんなことも、吹き飛ばすこの性格。なんにも悩むことなんて…」
「でもさ!なんとなくそんな気がして…。なんかあったら、ほんと相談に乗るから」
俺は、皆の不審な態度に、一人だけ仲間はずれされているような、気持ち悪い感覚を覚えたのだ。
なんとしてでも、向日葵の事を知りたい、そう思った。