「この学校の文化祭に、ピアノのコンクールがあるって聞いたんですけど、俺は出られますかね?」
唐突な質問に、先生は分かりやすく顔が固まった。
「お、お前、ピアノのコンクール、出られるの、か?」
小島先生の質問に、俺は平然と頷く。
先生には、何度かそのことについて話もしたし、驚くのも無理はないだろう。
「先生、木下向日葵さんって知ってますか?その子と出会って、ピアノが楽しいって気づいたんです」
すると、小島先生は表情を暗くした。が、すぐに顔を上げ、「そうか」とだけ言う。
なんだろう。先生までちょっと様子がおかしい気がする。
俺は、それでも話をつづけた。
「それで、その向日葵と一緒に、ピアノの連弾でコンクールに出たいんですけど、大丈夫ですかね?」
「え?木下と出るのか?」
虚を突かれた態度をとる小島先生。俺は、思わず首を傾げた。
「はい。何か問題ありますか?」
「い、いや、そういうわけではないけど…。木下には、了承を得ているのか?」
「いえ。これからです。でも、コンクールには憧れがあるみたいですし、大丈夫ですよ」
「そ、そうか。分かった。じゃ、じゃあ、エントリーには入れておく」
そこで先生は、声を潜めて、俺に顔を近づけた。
「断るんだったら、いつでも断っていいんだぞ」