話が順調に進みすぎているのではないか。
 

「でもさ、伊藤はまだ二年だろ?スカウトなんかあるわけ?」
 

俺の質問に、伊藤は顔を急接近させる。
 

「バカ野郎!才能に年齢なんて関係ない!」
 
「わ、分かったから、離れろよ!暑苦しい」
 

俺が慌てて伊藤を引き離すと、今度は水田が口を開けた。
 

「そういえば、去年はピアノのコンサートもやってたよ」
 
「え?マジ?」
 

すると、黒西も「そうそう」と俺に顔を向ける。
 

「やってたよ、確か。別に順位付けとかはなかったけど、あれで一人、音大にスカウトされた人がいたって話」
 

そこで俺は、向日葵と一緒にコンクールに行った日の事を思い出した。
 

『…いいな』
 

あの向日葵の言葉が、もし向日葵の本心だとしたら。
 

大学はともかく、向日葵と一緒にコンサートに出るのもありかもしれない。
 

「それってさ、連弾とかもいいのか?」
 
「連弾?二人で出るの?」
 

黒西が目を丸くする。すると、伊藤が突然不敵に微笑んだと思ったら、俺の頭を叩いた。
 

「お前、向日葵ちゃんと二人で弾くのかよ?分っかりやすいノロケだなー」
 

「黙れ!ってか、『ちゃん』つけるなって言っただろ!」


「うわー。ますます否定に力が入ってますよ、日向君。愛が深まりましたねー」
 

伊藤が、「ヒューヒュー」と言いながら、手を叩く。