私たちは、住んでる世界が違う
「オーディション?」
六月の中旬。相変わらず雨が降り、電気をつけた教室の中で、俺たち三人は昼ご飯を食べている。
「そ、文化祭という名の、オーディション」
伊藤が、売店で買った俺とおんなじパンをかじりながら、話す。
七月の上旬には、この学校は夏休みに入る。
そして、九月三日、つまり夏休みが終わって三日後には、文化祭が始まってしまうのだ。
なので、昼ご飯の後、俺たちのクラスは文化祭の事について、話す予定。
その流れで、伊藤が突然口にしたのが、『文化祭はオーディション』という言葉だったのだ。
「文化祭にオーディションって、どういうことだよ?」
俺は伊藤に質問したが、答えたのは水田だった。
「もちろんクラスで出し物もやるんだけど、この学校の文化祭の最大の目的は、大学へのスカウトだからね」
すると、黒西も、お弁当のおかずを口に入れながら、頷いた。
「例えば、去年は学校内だけで開かれる、陸上大会をやったの。んで、そこで一位を取った当時三年生の人が、体育系の大学職員の人にスカウトされて、見事入学」
「へえ、そんなことやるんだ」
俺がそう言ったところで、伊藤が机をバンっと叩いて、立ち上がった。
「今年は、絵の展示会も開かれるんだ!そこで芸術大学の職員の人が来て、俺の才能に惚れ、見事入学。そのまま俺は、日本を代表する天才画家、伊藤和仁へと進化する!」