「ううん、全然大丈夫だよ。っていうか、日向君があそこで引っ張ってくれたから、助かったんだもん。ありがとね」
感謝されてしまった。
お礼を言ってくれる向日葵だったが、それでも俺の心の中には、少し罪悪感が残ってしまう。
駅のホームについて、電車を待つ。
その間にも、俺たちはたわいもない話をして、盛り上がった。が、たまに向日葵が荒く息をしていて、やっぱりまだ恐怖が残っているのか、と心配になってしまった。
電車に乗ると、行きよりも乗っている人が多かった。
俺たちは近くの椅子に座る。電車が、ゴトンと動き出した。
ふと窓の外を見ると、水田の試合の帰りに乗ったときと全く同じように、空が夕暮れ色に染まっていた。
『努力は必ず実るものではないけど、確実に得はすると思うんだよね』
水田の言葉が蘇った。
「…向日葵は、努力って何だと思う?」
ふと、問いかけてみた。向日葵が、「え?」と言って、こっちに顔を向けた。
「友達が、ずっと剣道の試合のために練習してたんだけど、結局負けちゃってさ。それで、『努力』って、結局どういう意味なのかなって」
「…『好き』の次は、『努力』?」
向日葵に言われ、思わず自分で苦笑する。
「悩み過ぎか?」
「ううん。そんなことない。悩むのはいいことだと思うよ。諦めるよりも」
しかし、向日葵はそれ以上何も言わない。
もしかしたら、答えが見つからないのだろうか。