「なんだよ、お前。妬いてんの?分かりやすすぎだわぁ」
 
「妬いてないわ、どアホ!」
 

否定して伊藤を叩き返すが、内心は本音だった。

我ながら、情けないというか、恥ずかしい気持ちになる。
 

すると、伊藤は笑うのを止めて、窓の外を見つめた。表情が、ちょっと切なげになっていた。
 

「別に心配することはねえよ。俺は、ちゃんと他に好きな人がいるから」
 

伊藤の言葉を聞いた瞬間、俺は思わず顔を伏せた。
 

『一目惚れした』
 

あれは、伊藤の事を示しているのだろうか?
 

でも、やっぱり幼馴染の事を、一目惚れしたとは言わないだろう。

たぶん、俺たちの全然知らない誰かに、黒西は好意を寄せているのだ。
 

なんだか、いたたまれない気持ちになって、何も言えなくなってしまう。
 

「…実現しない世界を奏でるのも面白いんだろうけど、俺は自分の好きなものを描く時も、結構楽しい気持ちになれるよ」
 

伊藤の声が、いつもと違って聞こえたのは、錯覚だろうか。
 

美しい黒西の絵を思い出す。確かに、好きなものの絵を描くのは、楽しいかもしれない。
 

相変わらず、伊藤は切なげな表情をしている。


 …もしかしたら、伊藤も気付いているのではないだろうか。


伊藤は、黒西に好意を抱いているのだ。俺なんかよりも、はるかに黒西の事を観察しているだろう。



そもそも、二人は幼馴染だ。