俺は、「いや、なんでも…」と、混乱している頭の中から、慌てて言葉を見つけ出して答えるが、なぜか体の体温が全体的に上がってきた。
 

「ねえ、ここどうやるの?」
 

向日葵が、混乱している俺にも気づかず、返事をせかす。


当たり前だ。向日葵は、俺のこの明らかに動揺しているだろう態度も、見えないのだから。
 

「あ、ああ…。だから、ここは、右手がミラドミでだな…」
 

そう説明しながらも、俺は向日葵の指には触れない。


今もしも触れたら、間違いなく色んなものが爆発してしまうから。
 

「あ、そっか。そういうことね!それで、次は…」
 

向日葵が、一つ一つ丁寧に、正しい鍵盤の位置に指を置いていく。
 

なぜだろう。何回か、これまでにも向日葵には触れてきたのに、なぜ今日に限ってこんな…。
 

いや、分かってるだろう、日向。
 

昼休みの時、向日葵と伊藤が握手したのを見た瞬間、俺は胸がキュッとした。
 

別に、こんなことがなかったとしても、最初から分かってることだ。
 

もう一度向日葵を見た。白い肌と焦げ茶色の髪。意外と整ってる顔に、またドキッとしてしまう。
 

ああ、そうか、そういうことか。
 

なんだろう。むしろ、嬉しい気持ちになってきた。何かが吹っ切れたように感じる。

この前、ひまわり畑のピアノで音を奏でたときのように。