「あ、初めて笑った」
 

伊藤が、俺を指さしながら、嬉しそうに、どこか意外そうに言う。
 

そういえば、緊張していて、硬い表情しか作り出せていなかったから…。
 

「すごーい!笑った方がイケメンだよ、空川君!」
 

明るい声が聞こえたと思ったら、最前列から、黒い髪を後ろで束ね、小さい鼻が印象的な、可愛い女の子がこっちに向かって微笑んでいた。
 

すると、伊藤が女の子を振り返る。
 

「んだよ、絵里。お前、惚れたのか?」
 

「なわけないでしょ!なんでそっち方面に、話を進めるわけー?」
 

女の子はすぐさま言い返すと、伊藤の背中を叩いた。そして、また笑いが生まれる。
 

伊藤、さんとやらは、女の子の事を名前で呼んでいるし、女の子も伊藤の事を叩いていた。仲がい


いのだろうか?


そこで先生は、パンパンと手を叩くと、教室内を静かにさせた。
 

「はいはい、色々聞くのは後にしろよ。それじゃ、空川は、そこの空いてる席に座れ」