気付く、自分の想い



あれから二週間余りが経過し、五月に突入した最初の金曜日
 

俺は、伊藤、水田、そして黒西と一緒に、昼ご飯を食べていた。
 

あれから、相変わらず母さんとはぎこちない会話だが、それでも「練習」と言う単語は聞かなくなった。

父さんとも、少しだけだが、毎日会話をする時間ができてきていた。
 

あの後、学校で向日葵に両親の事を報告すると、「よかった!本当によかった!」と、何度も繰り返し言っては喜んでくれた。
 

それから、月曜日以外の平日は、ほぼほぼ毎日音楽室に行くと、ピアノはちょっと弾くくらいで、ほとんど向日葵との雑談になっていた。

まあ、向日葵の目的は、俺のピアノに感情を入れることだし、仕方はないのだが。
 

相変わらずクラスメイトからは、敬語で話しかけられることが多いが、それでも三人ともうまくいっているし、悩みに悩んでいた四月の時とは違い、本当に幸せな気持ちで五月に突入したのだ。
 

「それにしても、水田のその手、すごいなぁ」
 

伊藤がジュースを飲みながら、水田の手を見る。

俺もつられて見ると、そこにはこの前見た時よりも、ずっとたくさんのマメが出来ていた。


「うわっ。ほんとだ。お前、大丈夫なの?」
 

俺がぎょっとすると、水田はおかしそうに笑う。
 

「こんなの、しょぼすぎてなんとも思わないよ。それよりも、こっちの方がすごいんだ」