時計の針の一秒ごとに進む音が、とてつもなく大音量で聞こえる。



あれ、こんなに一秒って長かったっけ、時計壊れてるんじゃないか、と思ってしまうくらい、ゆっくりに聞こえた。
 

逃げたい、と考える自分も、ゼロではなかった。それでも、俺は歯を奥で強くかみしめながら、じっと耐え続ける。
 

どのくらい経ったのかは分からない。俺は何時間、何十時間、と表現してもいいくらい長く感じたが、実際は分(ふん)もいってないだろうと思う。
 

母さんは短いため息をついて、ふっと微笑んだ。

どこかの女スパイが、自分が死ぬのを覚悟して、諦めて笑うような、クールで絶念するような笑い方だった。
 

でも、母さんが俺に対して笑うのは久しぶりだったので、驚きで体の力を抜いてしまいそうになる。
 

母さんは、ゆっくりと口を開いた。
 

「…初めて、私に反抗したわね。初めて、そんな瞳で私を見つめたわね」
 

そう言うと、立ち上がって、俺を見下ろした。無表情だったが、なぜか恐ろしいとは思わなかった。
 

「勝手にすればいいわ」
 

それだけ言い放つと、リビングの出口に向かって歩き出した


一体どういう意味なのかまるで分からず、呆然と母さんのすらりとした背中を見ていると、母さんが「そうそう」と言って、俺を振り返った。
 

「向日葵さん、とやらに、ちゃんとお礼言っとくのよ」