向き合うとき


「あぁ、やっぱり無理だよ…」
 

昼下がりの、のんびりとした午後。俺は、家の前に立っていたが、思わずその場を離れようとする。
 

「い、いや、ここまで来て止めるのはおかしいよ」
 

「バカ!向日葵はあの母親の恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだよ。何にも言ってないのに、オーラだけで人を飲み込んでしまう、ブラックホールみたいな。それでもって、悪魔のような…」
 

どこか頭の配線がおかしくなったのだろうか。

次から次へと、勝手に言葉が出てきてしまう。向日葵は、横で呆れたように首を横に振った。
 

「大丈夫だよ。私も一緒だから」
 

動かし続けていた口が、向日葵の言葉でピタリと止まる。
 

「言いたいことは、言うべきだよ」
 

ほんと、向日葵には敵わない。

何気ない言葉が、ここまで大きく響くなんて、向日葵には特別な何かを持ってるとしか考えられない。
 

俺は、もう一度、真っすぐと家を見つめた。

震えている自分の手を、大丈夫、となだめるように、もう一つの手で包み込んだ。


「行こう」
 

腹をくくって、そう言った俺の声は、震えていた。

でも、向日葵は何も突っ込まず、白杖を前で叩きながら歩き出した。
 

玄関の前に着く。チャイムのボタンを押した。自分の家のチャイムを鳴らすのは、初めてだった。