それは、もしかしたら、少しは克服できるかもっていう合図だったのだろうか。
 

「でも、それでも怖いよな…」
 

独り言だ。これは、自分に言ったのだ。
 

三年間、母さんの恐怖に耐え続けて、でも母さんに何も言い返せずに生きてきたんだ。

そんな俺に、克服できる力はあるんだろうか?
 

「…私も、一緒に行くよ」
 

向日葵の、絞り出すような声が、俺の耳に入った。
 

「私も、日向君と一緒に、日向君のお母さんのところに行くよ。日向君に色んなものをふきこんだのは、私なんだから」
 

「いや、だからそんな責任感じることないって!それに、向日葵だって怖いだろ?そんな無理して…」
 

本当に、申し訳なく思ってそう言った。

だってそうだろう?何度も言うが、これは俺の問題だ。そこに、なんの関係もない向日葵を巻き込むのは、迷惑にもほどがある。
 

でも、向日葵は断固として、首を横に振った。
 

「確かに怖いよ。でも…ダメだから。ちょっとくらい逃げるのはいいかもしれない。でも、自分が作った問題からは、逃げちゃダメなんだから!」
 

そこで、向日葵は言葉を切ると、再び穏やかな表情に戻った。
 

「それにさ、二人の方が、心細くないでしょ?」
 

向日葵の声も、言葉も、とても優しかった。
 

それは、不安でガチガチになった俺の心を、静かに、温かく、包んでくれた。