「このまま帰ったら、母さんになんて言われるのかなって」
 

すると、向日葵は「あ…」と言って、目を伏せた。

向日葵は、人の事でも、自分の事のように喜べる。そして今、向日葵は人の事なのに、自分の事のように悲しい顔をしていた。

それだけでもう、俺の心はもう、少し軽くなる。
 

「向日葵はそんな心配しなくてもいいよ。これは俺だけの問題だし…」
 

「そんなことないよ!私が日向君に、エスケープしようって提案したんだから、私の責任でもあるんだよ!」


向日葵の突然の叫びに、俺が困惑していると、向日葵は再び目を伏せた。
 

「…いや、ごめん。ちょっと叫び過ぎちゃった」
 

罰の悪そうな小さな声に、俺が慌てて何か言おうとすると、向日葵はその前に小さく笑った。
 

「ほら、日向君って、お母さんの影響で、感情が持てなくなっちゃったじゃない?でも、今日向君は、ちゃんと感情も持てて、好きって気持ちも持ってる。それは、きっとお母さんの恐怖からも、克服したんじゃないかって意味になると思ってさ」


「…そう、かな」
 

確かに、感情が持てなくなってしまった最大の原因は、『生きてる価値がない』と母さんに言われた事。

でも、さっきピアノを弾いたときは、母さんの事なんて一切考えなかった。