「私は、そこで気づいたの。美しい音と豊かな感情を使えば、夢のような素晴らしい世界を、ピアノと共に奏でられるんじゃないかって」
 


肩を、どっと下ろした。


確かに、向日葵の言葉は当たってるかもしれない。
 

今まで、いつもピアノを弾くと心が真っ白になっていた。

それは、感情を持っていなかったから。何にも情景を見ることが出来なくて、心が何にもない、真っ白なものになってたんだ。
 

でも、さっきピアノを弾いてる時、俺の心は真っ白になんかならなかった。
 

小島先生、向日葵、そして三人の顔が浮かんできた。

もしかしたら、向日葵の言うその『夢のような世界』というものは、それなのかもしれない。
 

「そしてそれは、私が見るはずだった世界よりも、ずっと素晴らしい世界なんじゃないかって思ってるの。だから、私はピアノを楽しく弾ける。そして、盲目でも、こうやって普通に明るく生きられるんだよ」
 

「…そう、なん、だ」
 

とりあえずそう応えるが、向日葵の言葉に俺は胸がいっぱいだった。
 

ずっと、ずっと気になっていた。なぜ向日葵は、盲目なのにも関わらず、そこまで明るく生きられるのだろうかと。


でも、今答えが見つかった。

向日葵は、ピアノを弾いてる時に、世界を心の中に奏でている。それも、現実では絶対にみれないような、夢の世界を。


だから、あんなにピアノを弾いてる時、楽しそうに弾けていたんだ。