そうだろう。こればっかりは、向日葵みたいに飛びぬけた聴力を持ってなくても分かる。
自分の事だから、と言えば正しいが、完璧に正しいわけではない。
久しぶりだったからだ。こんなに楽しくピアノを弾いたのが、あまりにも久しぶりだったから。
だから、より俺の音色が、明らかにいつもと違うことに気づけたんだ。
「気づけたんだ。俺、やっぱりピアノが好きだって」
俺の言葉に、向日葵は何度も頷きながら、「よかったね」と言ってくれる。
「きっと、色んなものが、日向君を変えたんだろうね」
そうだ。きっとそうだ。
三人の好きって気持ちが、先生のあの深い説教が、向日葵のやさしくも強い言葉が、俺を変えたんだ。
「自分で見つけた答えは、きっと日向君にとって、大きなものになるよ」
俺は、「うんうん」と頷きながら言った。
頷いてるだけじゃ、向日葵は俺の動作を知らないから。
そこから、しばらく沈黙が流れた。気まずい沈黙ではない。
多分、まだうまく整理がつかない俺の事を悟って、向日葵が待っていてくれてるのだろう。
確かに、まだまともに話せる状況ではない。
しかし、だんだん海の波が潮を引くように、興奮した気持ちは消えていった。
「…ねえ、日向君。一つ聞いてほしいことがあるんだけど」