ずっと体にまとわりついて、もはや体の一部になりかけていた何かが、外れる感覚だった。


昔、小学生の頃に、六年間ランドセルを背負いっぱなしで、学校に行くときは、もはやランドセルの重みが当たり前になっていた。

でも、ある日何も持たずに、何気なく学校に行ったら、『あれ、こんなに軽いんだ』と、気づいたあの感覚。
 

軽くなっていく、あの感覚だ。
 

俺は、耳を研ぎ澄ませる。目を瞑って、いつのまにか笑っていた。
 

初めてだ。いつもは自分の指をがん見して、笑うどころか完全に無表情だったのに。
 

一つ一つの音が作り出す美しい音色。心を震わす音にふさわしい強弱。
 


分かった。
 


見つけた。見つけたよ。
 


自分の答えを、自分で見つけた。
 


最後の和音を、力強く、すべての想いをそこに入れて、鳴らした。
 


俺は、俺はやっぱり…。
 








ピアノが、好きなんだ。
 





パチパチパチパチ
 

手を叩く音が聞こえた。これまで、たくさんの拍手を聞いたけど、一番うれしい拍手だ。
 

「おめでとう」
 

向日葵の一言目は、それだった。「よかった」とか、「きれいだね」とか、そんなんじゃなく。


でも、その向日葵の言葉は、何よりも俺の心に響いた。

ああ、向日葵はすべてを分かってくれているんだ、と嬉しくなった。
 

「ピアノが好きだって、日向君の音が言ってたよ」