あまりにもぶっ飛んだ向日葵の言動に、少しイラっとしてしまった。
だから思わず、
「ああ、弾くよ!弾いてやるよ!」
と、口走ってしまい、手を口に当てる。
しかし、向日葵はにんまり笑うと、「イエス!」と、ガッツポーズしていた。
なんでこう乗せられるかな、と嘆きつつも、俺は観念してピアノの椅子に座った。
蓋を開ける。冗談抜きで、何万回と見てきたはずの鍵盤を、なんだか今日は違うものとして見れた。
もしかしたら、少しはいつもと違うかも。
俺は、鍵盤の上に手を置く。
ゴミ箱に捨てた、『革命のエチュード』の楽譜が、頭の中をよぎった。
大丈夫。今は、操られ人形なんかじゃない。
今は、コンクールのためでもなく、母さんのためでもなく、純粋にピアノを弾くんだ。
それに、向日葵がいる。向日葵がいれば、俺は楽しく弾ける。
たとえ彼女が、今までみたいに、俺と一緒に弾かなかったとしても、ただ見ているだけだとしても。
向日葵の方を見ると、すでに向日葵は目を閉じていた。完全に、ピアノを聴く態勢に入っている。
好きって思えなくても、感情が持てなくても、俺はピアノを弾く。弾ける。
小島先生や、三人に聞いてるだけじゃ、どうにもならない。
自分の答えは、自分で見つけるんだ。