向日葵と一緒に部屋に入ると、今度はため息をついてしまった。
 

ガラス越しに流れてくる太陽の光は、舞台のスポットライトのように、この部屋全体を明るくしている。

でも、スポットライトのような緊張感はなく、自然が創り出した幻想的で、人の心に安らぎを与えてくれる光だった。
 

全面がガラス張りのため、三百六十度からひまわりが見えた。

今、花に囲まれてるんだ、と思いながらピアノを弾くと、どんな気持ちになるのだろうとワクワクした。
 

「やっぱりすごいでしょ?目が見えない私でも、ここでピアノを弾くと、気分がよくなるんだもん」
 

向日葵は、そう言うと白杖を置いて、ソファに座った。

ピアノの椅子に座るんじゃないのか?と疑問に思ったら、向日葵が手で俺をピアノに動かした。
 

「どうぞ。ここで、リサイタル開いてみてくださいな!」
 
「…は?」
 

突然のリクエストに、間抜けな声を出してしまう。
 

でも、向日葵は相変わらず能天気に笑いながら、もう一度手を上げて促した。
 

「だから、ここでピアノ弾いてみたらって言ってるの。少しは気分よく弾けるでしょ?」
 

「い、いや、弾けるかもしれないけど…」


『俺は逃げてきたんだぞ』そういう前に、向日葵は俺の足を白杖で殴った。
 

「いった!」
 

「早く弾くの!っていうか、当たった!絶対に当たんないと思ってたのに!」