その建物は、天井を含め、すべてがガラス張りで出来ていた。
中には大きなグランドピアノと、小さなソファが置かれている。
すごい。こんなところに、しかもこんなおしゃれな建物の中に、グランドピアノがあるなんて。
情熱とかそういうのは置いておいて、ここでもしもピアノを弾いたら、普通に幸せな気持ちでなるだろう。
本当に、大げさとかじゃなく。
「私のお母さんも、昔ピアノを弾いててね。ここのひまわり畑は、実家のおじいちゃんが所有者だから、このひまわり畑に、小さいころピアノの部屋を作ってくれたんだって」
向日葵が、慣れた手つきで鍵を開けながら説明する。
たぶん、ここの鍵を開けるという作業も、数えきれないくらいにやっているのだろう。
「お母さん、今は音楽教師なんだけど、昔はプロのピアニストだったの。その時、同じプロのピアニストだった、お父さんと出会ったって言ってた」
そっか…。やっぱり、向日葵はピアノサラブレットだったのか…。
当たり前だ。盲目でありながら、あそこまでピアノを弾くには、残酷だが努力だけじゃどうにもならない。
それなりの、天から、いや、遺伝からの才能も必要なのだ。
でも、だとすると、両親ともども音楽に触れていない両親を持つ俺は、一体何なのか、とちょっと不安になる。