自分で見つける、自分の答え
コンクール当日、朝六時に起きてリビングに行くと、母さんがサンドイッチの乗った皿を渡してきた。
「八時にはここを出るから。それまで、ゆっくり指を慣らしておきなさい。でも、あんまり本気で弾いちゃダメよ、指が疲れるから」
「分かってる」
大体のコンクールでは、毎回こんな朝が訪れる。
出来るだけ食べやすい、おにぎりとかサンドイッチを俺に持たせて、朝食を食べながらギリギリまで練習する。
俺は、ピアノ部屋に行くと、隅にサンドイッチを置いて、コンクールで弾く予定の『革命のエチュード』の楽譜を、譜面台に置いた。
自分でも少し難易度の高い曲。左手は高速の十六分音符に、右手はややこしい和音の連鎖。
しかし、時折自分の事が恐ろしくなるのは、プロのピアニストでも弾くのが難しいこの曲を、体に染みつかせているせいか全く難しいと思わない事。
皮肉っぽく聞こえるだろうが、俺にとってはこれが嫌でたまらない。
少しでも、難しいとか、そんなことを思えれば、それも一種の感情として、ピアノの中に組み込まれる。
そうなれば、『機械のピアニスト』なんて呼ばれないのに。
俺は、静かに目を瞑った。