向日葵が、笑顔を引っ込める。
 

「でも、先生には、『好き』を見つける方法なんてないって怒られて、そこで俺は一つのものを追い続けて、根本的な問題を忘れていたって気づいたんだけど」
 
「…一つのものって、ピアノに感情を入れられるかっていう問題?」
 

俺は頷く。向日葵は、ピアノの椅子に座るが、蓋は開けない。
 

「『好き』があれば、たぶん日向君は、ピアノに感情を入れられるかもしれないね」
 

向日葵の言葉に、俺は「だろうな」と、心の中で呟いた。
 

「『方法がない』っていうのもありだけど、私は『自分で探す』っていう方がしっくりくるかな」
 

向日葵はピアノの蓋を開けると、細い指を鍵盤に乗せる。
 

「日向君は、私や日向君の友達を見たことで、自分の『自分はピアノが好きなのか。弾いてる時、感情が持てない』っていう問題に向き合えた。そうでしょ?」
 

「うん」


俺は小さく返事をした。
 

この学校に来て、向日葵と出会ったことで、感情が持てないことに改めて向き合えた。

伊藤、水田、そして黒西に出会ったことで、自分のピアノが好きじゃないという感情と向き合えた。

それは、本当に感謝してるし、自分でもよかったと思っている。
 

「…でも、逆に周りしか見ないで、人に聞いてるだけじゃ、返ってくるのはその人の答えばっかりだと思うんだ。本当に答えを探しているんだったら、自分で自分の答えを探さなきゃ、意味ないんじゃない?」