「こんにちは。何か用?」
 

優しい声に、優しい笑顔。初対面の人と話せない俺でも、なぜか緊張しない。

きっと、この特別クラスに必要な先生は、そういう先生なのだろう。
 

「木下向日葵さんの友達の、空川日向です。向日葵さんを迎えに来たんですけど」
 
「ああ、日向君ね。向日葵さんから、色々聞いてるわよ。いつもすごい楽しそうにあなたの事話してるの」
 

『すごい楽しそうに』その単語を聞いて、分かりやすいくらいに嬉しくなった。
 

「あれ?日向君の声がする。来てくれたの?」
 

向日葵が、教室から出てきた。折り畳み式の白杖を、バッグの中からとり出す。
 

「ああ。たまには、迎えに来ようかなって」
 
「へえ、ありがとう。案外優しいんだね」
 
「案外ってなんだよ」
 

向日葵が、ぺろっと舌を出す。横で見ていた、先生が微笑んだ。
 

「ほんと、楽しそうね。見てるこっちまで明るい気持ちになれるわ」
 

褒められているのか、非常に分かりにくいことを言われたが、とりあえず頭を下げてお礼をする。
 

「それじゃ、淀野(よどの)先生、また明日」
 

淀野先生。そう呼ばれた先生は、「ええ」と言って、また優しく微笑む。
 

「じゃあ、行こうか」
 
「ああ」
 

俺は、もう一度淀野先生に頭を下げると、向日葵と肩を並べて歩き出した。


「いい先生だね」
 

階段を上りながらそう言うと、向日葵も頷く。