「…うーん、まあ合ってるっちゃ合ってるんだけど。でもさ、他にもいろんなルールがあるんだよ。なにより、礼儀が一番大切な競技だからね。最初の礼儀がきちんとできてないだけで、退場ってこともあるんだ」
 

水田はそう俺に教えながら、手袋らしきものを脱ぐ。

すると、水田のマメだらけになった手があらわになり、俺は驚く。
 

「すごいな、めっちゃマメがあるじゃん」
 
「え?ああ、これな。結構できるんだよ。ま、そのくらい練習してるって思えば、マメを見ても嬉しく思えるんだけどね」
 

水田は、自分の手を愛おしそうに見つめる。
 

「…水田はさ、剣道いつから始めてるの?」
 

俺がポツリと聞くと、水田は自分の目線を手から遠くの方に移し、「うーん」と唸った。
 

「小学五年生の頃からかな。剣道の習い事を始めて、中学校から剣道部に入ったんだ」
 
「へえ、じゃあ結構入学当時からチヤホヤされてたのか?」
 

ところが、水田は笑いながら首を横に振った。
 

「まさか。チヤホヤされるどころか、本格的に試合させてもらえるようになったのだって、一年生の冬の時だったから」


そこで、水田はある場所を指さす。

その先には、先輩らしき女の人に、胴着も着ずにタオルをあげている、男の子がいた。比較的背も小さいし、一年生といったところだろう。
 

「…あの子さ、結構中学時代でも、剣道でいい成績残してたみたいなんだよ。でも、まだ先輩たちの召使。たぶん、あの子が胴着を渡されるのも夏休み後くらいなんじゃないかな」