「あ、いえ、ちょっと知り合いが剣道部に入っているので、覗きに来たんです…」
とりあえず、女の人と目を合わせないように頭を下げながら、小さな声で答える。
「知り合い?よかったら呼ぼうか?誰?」
どうみても不愛想な俺に、女の人はちゃんと明るく返してくれる。
しかし、水田にも迷惑じゃないかと断ろうとしたら、先輩の後ろに、さっきまで試合をしていた一人が仮面を脱いだ。
下から現れたのは、爽やかな黒髪と、少したらーんとした優しい瞳を持つ水田の顔だった。
「…あ、水田」
思わずつぶやくと、女の人も水田の方を振り返った。
「ああ、水田君ね。おーい、水田くーん!お友達が来てるよー!」
女の人の大きな声に、水田はこっちを向く。すぐに俺に気づいたのか、俺に向かって手を振ってくれた。
なんだか、久しぶりにしっかりと誰かと目を合わせて、手を振ったような気がする。俺も、手を振り返した。
「どうしたの、急に」
「いや、やることないから見学に来た」
いつの間にか女の人はいなくなっている。俺と水田は、邪魔にならないように隅の方に行き、腰を下ろした。
「剣道ってさ、やっぱり大きな声を出しながら、色んな所を竹刀で叩くってイメージがあるけど、そうなの?」