そんな贅沢な俺が、感情を持つことから逃げている。俺が生きる価値を無くしたくないから。

怖くて、逃げ続けて、暗いトンネルの中を走り続けてる。
 

こんな恵まれた俺が、諦めて逃げ続ける。
 

それで、俺は満足なのだろうか…?
 

「…俺は、感情を持つことから逃げてるのかもしれない」
 

俺は、それまで前に出していた足を止めると、そう言って肩の力をもやもやを振り払うように落とした。
 

「母さんに、昔からすごい厳しくされててさ。生きてる価値がないって言われたこともあるんだ。結局、向日葵とピアノを弾いてる時は、向日葵が横にいることに対して幸せを覚えていたわけだし…。だから、その、まだ感情は持ててないし、成長もしてないんだと思う。ごめん…」
 

怒られることを承知で、俺は全部を思い切って吐き出した。

何を言われるんじゃないかと、目を瞑ってしまう。
 

「ほーらね!」
 

向日葵の明るい声が、静まり返った住宅街に響き渡る。何か正解を言って、得意げに自慢している小学生の声。
 

俺は、予想外の反応に、目を開けて向日葵を見ると、そこにはいつもの無邪気な向日葵の笑顔があった。


「やっぱり、君のその感情を持てない問題には原因があったんだね。ありがと、教えてくれて!」
 

まさかのお礼。予想外過ぎて、「はあ…」と言ったきり、言葉が浮かばなかった。