すると、さっきまでの真剣な表情がほころび、再び夾雑のない、無邪気な笑顔を俺に向けてくれた。
「ね、よかったらさ、土曜日遊びに行かない?」
「遊びに?」
突然の提案に、一瞬心が浮き立った。
「うん。天才ピアニストにも、休暇は必要でしょ?」
「も、もちろん!どこ行く?」
「大丈夫。私、もう決まってるの。明日、私の家に来てくれないかな?」
どうせ向日葵には見えないからと、俺は猛烈な勢いで頷いた。
「分かった。じゃあ明日、十時ごろに向日葵の家に行くよ」
「うん。待ってる」
声だけは何とか平常心を装えたが、向日葵がもし盲目じゃなかったら、俺のこのあきらかに動揺した態度に、真っ先に気づいていただろう。
だって、まさか向日葵とどこか遊びに行けるなんて…。
どこに行くのだろう?
いや、どこだっていい。結局、向日葵といれば、どんな時でも楽しくいられるのだから。
…って、こんな風に考えていたら、普通に変態じゃないか。
そうだ。別に、そういう気持ちがあるわけではない。
ただ、本当に、純粋に向日葵といると、心が気持ちよくなるというか、自分が一番、自分らしくいられる。
母さんといる時とは大違いだ。自分の感情を一切封印して、ただただ命令に従っているだけの俺は、母さんの操り人形でしかない。