放課後、授業が終わると、俺は真っ先に音楽室に向かった。
 

いつもなら、じょじょに大きくなっていくはずのピアノの音も、今は聞こえない。
 

それでも俺は、音楽室の扉を、がらりと開けた。
 

「あれ?日向君?」
 

向日葵が、カバンを棚に置きながら、俺の方に顔を向けた。
 

「今日は、早いね」
 
「ああ。今日は、真っすぐ来たから」
 
「そっか。嬉しい」
 

向日葵と俺は、そのまま二人でピアノの椅子に座った。
 

まだ三日目なのに、なんだかずっと前から、こうして二人でピアノを弾いてたみたいだ。
 

「今日は、何を弾く?」
 
「もう決まってるんだよ!」
 

向日葵は、柔らかに笑うと、右手を動かして音を奏で始めた。
 

これって、『メリーさんのひつじ』…。
 

「知ってるでしょ?」
 
「知ってるけど…。また、こんな簡単な曲なの?」
 
「うん。でも、昨日よりかは難易度高いよ」


当たり前の事のように言う向日葵に、俺は「そう」とだけ、言った。
 

まさかの二日連続で、こんな簡単な曲とは。

嫌じゃないけど、なんだか難しい曲の方が、やりがいがあるっていうか…。
 

「まあ、簡単な曲には不服だろうけどさ。難しい曲を弾くと、日向君自分の指ばっかり見ちゃって、感情どころじゃないでしょ?最初は簡単な曲で、純粋に音楽を楽しいって思わなくちゃ」