「いった!何すんだよ?」
 
「目の前で、そんなこと言われたら、殴りたくもなるだろ!」
 

伊藤の意味不明な言葉に、今度は水田が伊藤を叩いた。
 

「いちいち妬くな。自分の性格を恨みなよ」 
 
「うっせーな!水田だって、ぜんぜん女っけないくせに!」
 
「言ったな!僕はお前よりは絶対にあるわ、このバカ伊藤!」
 

そのまま、水田は伊藤を追いかけて、教室内を走り出した。
 

ほんと、元気のある奴らだな…。
 

俺が、呆れて首を振りながら、売店で買ったパンを、ほおばる。
 

ふと前を見ると、いつもは楽しそうに二人の様子を見てるはずの黒西が、顔を伏せていた。
 

「どうしたんだ、黒西?」
 

俺が心配して黒西の顔を覗き込もうとしたら、はっと黒西は顔を上げた。
 

「ううん、なんでもない」
 

いつもと変りない、黒西だった。


「空川はさ、向日葵さんと出会って、何日くらいたつの?」
 
「え?二日くらいだけど、それがどうかしたの?」
 
「いや、なんでもない」


黒西はそれだけ言うと、何事もなかったように、走り回ってる伊藤と水田に目を向けた。
 

「いけー水田!和仁をとっ捕まえろ!」
 

楽しそうに、黒西はそう叫んだ。
 

俺は、何事もない黒西に、少し安心しながら、残りのパンを全て口に入れた。