「私、日向君には、そんな明るいピアニストになってほしいんだ」
 

優しい、包み込むような、向日葵の声。
 

なんでだろう?なんで、向日葵はそこまでして、俺の事を考えてくれるんだろう?
 

「向日葵も、ピアニストになりたいんだろ?いいのか、俺の事ばっかり気にして?」
 

なんとなく、直接聞かずに、遠回しに聞いてみた。
 

向日葵は一瞬顔を伏せると、「うーん」とわざとらしく言いながら、歩き出す。
 

「私は、未来の事は考えないタチなの。今は、日向君のピアノを素晴らしくするって目標があるから、それを達成することだけに、全力を注げばいいんだよ」
 

待っていた答えは聞けなかったが、それでも俺は嬉しくなった。
 

向日葵の、あまりにも優しい答え。幸福って、こういうことを言うんだって、思った。
 

向日葵はそのまま慣れた様子で、T字路を左に曲がると、足を止めた。
 

「じゃあ、私ここの家だから」
 
「あ、そうなの…」