「え?あ、うん。まあ、そのつもり」
 
「ふーん。でも、ピアノ嫌いだって言ってなかった?」
 
「嫌いだけどさ…。それしか、取り柄ないし」
 

向日葵は俺の言葉を聞くと、少しつまんなそうな顔をして、下を向いた。
 

やっぱり、向日葵にとっては俺みたいな奴、信じられないんだろうな。
 

「…それを悩んでるところもあるんだ。ピアノなんて嫌いなはずなのに、俺からピアノを取ったら何が残るんだろうって」
 

俺は、上を見上げた。

西の空が、より濃い茜色に染まり、東の空は、少し黒がかかっていた。まもなく、夜が始まる知らせだ。
 

「俺は、ピアノをやってもいいのか。やったところで、成功するのだろうかって」
 

俺がそう静かに呟いた途端、向日葵は杖をついたまま走り出した。
 

「お、おい!」
 

危ないと思って、慌てて呼び止めると、向日葵はピタリと止まって、こっちを振り返った。
 

「だったら、ピアノの事を好きになればいい!」
 

向日葵は、大声で叫んだ。