「俺は子供の頃から海が好きで、今でもフラッと来たりするんだ」
「そうなの?」
「うん。なんかさ、ここに来ると嫌なこととか忘れられるっていうか……。良い気分転換になるんだよね」
言いながら大きく伸びをしたユウリくんは、数歩先に足を踏み出した。
ここに来ると嫌なことを忘れられる……。
確かに広い海を見ていると、なんだか自分の悩みも酷くちっぽけなものに思える気がして、不思議と心が落ち着いていく。
「あ……っ。見つけた」
「え?」
そのとき、ボーッと海を眺めていた私の前で、唐突にユウリくんがしゃがみこんだ。
何かと思って首を傾げると、すぐに立ち上がったユウリくんはこちらを向いて、私の前に手のひらを差し出した。
「ほら、これ。見たことない? シーグラス」
見ると手のひらの上には、ちょこんと小さな石が乗っている。
「見たことあるけど、これ、シーグラスって名前なんだ……」
「そう。石っぽくみえるけど、正体はガラスの欠片が波にもまれて角が取れたもので……。昔はよく見つけたけど、なんか久しぶりに拾ったかも」
そう言うと、ユウリくんはそれを陽の光にかざした。
淡いブルーのシーグラスは、まるで海を閉じ込めたみたいにキラキラと輝いている。
……そういえば私も子供の頃、家族で海に遊びに来て見つけたことがあった。
あのときはお姉ちゃんと一緒にいて……まるで宝石みたいだねって、無邪気に笑いあったんだ。