──気持ちいい。

ただ、走っているだけなのに自然と笑みが溢れていた。

思わずギュッと腰に回した手に力を込めると、また心臓の音が速くなった気がした。


 ✽ ✽ ✽


「着いたよ」


煌めくブルーの水面と、ペールオレンジの砂浜。

鼻先をかすめる、潮の香り。

自転車に乗った私達が辿り着いたのは、駅から十五分ほど離れた場所にある海だった。


「波打ち際まで行ってみる?」

「うん……!」


寄せては返す波の音が、耳に心地よい。

ユウリくんの言葉に二つ返事をした私は、一歩先を歩く彼の背中を追って、砂浜に降りた。


「海なんて来たの、久しぶり……」

「そうなの?」

「うん。もう何年も来てないかも」


最後に来たのは、確か中学一年生の頃の課外活動だったと思う。

小学生の頃までは、夏になると両親と一緒に遊びに来ていたけれど……。

そのうち、親と海水浴に来るのは恥ずかしいと思うようになって、いつしか足が遠のいた。