「……ありがとう」


不思議と答えは、一つしか思い浮かばなかった。

──まだ、家に帰りたくない。

今は一人きりでいたくない。


「よしっ。そうと決まれば、後ろに乗って」


そうして言われるがまま、おずおずと横座りで荷台に腰を下ろした私は、膝の上でギュッと拳を握りしめた。

するとそれに気がついたユウリくんが、不意に私の手を掴んで自分の身体の方へと引っ張ってしまう。


「あ……っ」

「それじゃあ危ないから、ちゃんと俺の腰に捕まって」


言葉の通り、ユウリくんは自分の腰に腕を回すようにと私の腕を引き寄せた。

わ、わぁ……っ。

途端に身体と身体が密着して、胸の鼓動が今にも爆発しそうなほど速くなる。

ピタリとくっついている場所からはユウリくんの体温が伝わってきて、意識してしまうと身体が沸騰したように熱くなった。


「……じゃあ、行くよ」


けれど落ち着く間もなく、自転車は走り出す。

同時に顔を上げたら、真っ赤に染まったユウリくんの耳が目に入って、また胸の鼓動が大きく跳ねた。

……どうしてだろう。ユウリくんといると、ドキドキする。

今……ユウリくんがどんな顔で前を向いているのか気になって、落ち着かなかった。

こんな気持ちになるのは初めてで、考えても答えは見つからなくて、私はそっと目を閉じた。

まだしばらく沈む気配のない太陽と、頬を撫でる優しい風。

真っすぐな道を走る自転車は、私たちを乗せて段々と加速していく。