「ち、違います! この服が下に落ちてたから、私は直そうと思ってそれを拾っただけで……!」

「あー。そうなんだ、なるほど。偉いねぇ」

「あ、あはは……。すみません、なんか……。そ、それじゃあ私はこれで……失礼します……!」

「あ、美織……!」


お姉ちゃんの鈴の音のような声が私を呼び止めた。

けれど、逃げるようにその場を立ち去った私は一度も振り返ることなく、足早にステーションビルをあとにした。


「……っ、はっ、ハ……ァ」


なんで、なんで、どうして……!

駆け足で歩いたせいで、息が切れる。

心臓はバクバクと鳴り続けていて、頬は紅潮しているのに指先だけが冷たかった。

……きっと、お姉ちゃんたちには私のついた嘘なんてバレていただろう。

私が持っていた服を見て、お姉ちゃんの友達たちは、『あんたがそれ買う気なの?』って思ったに決まってる。

『お姉ちゃんに似合う服なのに、あんたが?』って……。

『冗談やめなよ。それは、あんたには似合わないでしょ』って、絶対に思ったはずだ。


「……っ、」


そう考えると、あの服を着たいと思った自分が恥ずかしくて、たまらなくなった。

もしかしたら自分に似合うかも……と、自惚れたことも、恥ずかしくてたまらない。