「これ着てみたい、かも……」


こんなふうに、自分から着てみたいと思う服に出会うのは初めてで、胸が踊った。

小さい頃から服はお姉ちゃんのお下がりばかりで、自分には似合わないものでも着る以外の選択肢がなかったんだ。

お姉ちゃん好みのふりふりのフリルがたくさんついた服も、ベビーピンクのスカートも、私にはとてもじゃないけど不釣り合いだった。

中学生になった頃、私がお姉ちゃんの背を追い抜いて、服もお下がりではなくなったけど……。

その頃には自分にはどんな服も似合わないような気がして、服選びはいつも、お母さん任せだった。

だから試着なんて、お母さんと一緒に買い物をするとき以外、したことがない。

だけど、今日だけは……。

そんな後ろ向きな自分を、脱ぎ捨ててもいいだろうか。


「すみません、これ……」


けれど、私がマネキンの着ているその服と同じ服を手に取って、店員さんに声をかけようとすると……。


「あれ? 美織?」


不意に聞き慣れた声が私を呼んで、思わずビクリと肩が揺れた。