「へぇ、珍しい。頑張ったね、あのヒトタラシイケメンヘタレ」

「え、なんて?」

「ううん、なんでもなーい。で? もちろん行くんでしょ? いいじゃん。たまには変なレッスンとかやめて、二人で会ってくれば?」


手元の鏡でつけまつげを確認しているたっちゃんは、なんのこともないように言ってみせる。

だけど、私は……。私には……、


「む、無理だよ……!」

「はぁ? なんで?」

「だ、だって、休みの日に男の子と二人きりで遊ぶなんて……! 私、そんなの初めてだし、可愛い服とかも……持ってないもん……」


必然的に語尾が小さくなった。

これまで恋に恋してばかりだった私は、少女漫画や恋愛小説はたくさん持っているのに、いざというときの可愛い服の一枚すら持っていない。


「そんなの、買えばいいでしょ」

「か、買う……!?」

「そう。少しくらい、お年玉の残りがあるでしょ? 最悪、親の手伝いでもして資金調達したらなんとかなるし」

「で、でも……」

「でも、じゃない。じゃあ、ジャージでも着てユウリくんに会いに行く? 嫌でしょ?」

「うう……」

「はい。そうと決まれば今日の放課後、服屋に下見でも行ってきな。生憎、僕は委員会があるから一緒に行けないけど……。たまには、恋に恋してばかりじゃなくて、自分一人で自分磨きをしなくちゃね」