「あのさ、香織…。
私、アメリカに行くんだ。」
私の突然の言葉。
でも、香織はそこまで驚いていなかった。
「へぇ。新婚旅行はアメリカかぁ~。」
新婚旅行…??
そっか。香織は新婚旅行と勘違いしてるんだ。
さすがの私でも、新婚旅行はアメリカじゃなくて、ヨーロッパに行きたいな。
出来ればイタリア。
でも、今回は違うんだよ…香織…。
「違うの…。」
「違うって何が??」
「…………………新婚旅行じゃない。」
一瞬、香織の顔が曇った。
私は苦しくなる前に自分から話す。
「龍斗がね、経済の勉強でアメリカに留学するの。
私、ついてきてほしいって言われた。
それで……………。」
「もしかして、本当についてくの…??」
私は顔があげられなくて、下を向いたまま頷いた。
香織は今、どんな顔をしてるの…??
気になるけど、怖くて見えない。
「……じゃあ、大学は??」
「……………いけない。」
「香織が、わざわざ私のために頑張って勉強してくれたり、私たちが継ぐ会社に勤めようと努力してくれてるのは知ってる。
でも…私…龍斗を支えたいの…。
夫婦になってもやっぱり不安なの。
龍斗は日本人にしては背が高いし、かっこいいし、きっと向こうでもモテるでしょ??
こっちの大学で勉強したいことは山ほどある。
こっちでしか学べないことだってたくさんあるし…。
それでも、やっぱり龍斗と居たいの…。
ごめん…香織。」
私は思ってることを全て伝えた。全部自分勝手だ。
香織は何も悪くないのに…。私は…香織を傷つけてる…。
「私…美姫が思ってるほどいい子じゃないよ…。」
え…。思いがけない言葉に私は下を向いていた顔はバッと上を向き、香織の顔を見た。
「……っ……」
香織の表情は怒ってるわけでもなく、悲しんでいるわけでもなく、優しい。
「美姫はさ、私が美姫のために同じ大学に行ったみたいに思ってるかもしれないけど…それは違う。
私がいなくても、龍斗がいたし美姫が平気なのは知ってた。
でも…私が美姫といたかったから、勝手に同じところに受けたの。
だからね、美姫が謝ることなんて一つもない。」
「でもっ!」
「美姫…本当に私のこと思ってくれるなら、会社をもっと大きくして、私を雇ってよねっ!」
ニッと笑った香織は「それに…」と続けた。
「離れてても空は繋がってるでしょ!」
その瞬間、私の目からは涙が流れた。
「ありがとう…。」
「アメリカ行ってもメールしてね??」
「うん!」
「3ヶ月に1回は帰ってくること!」
「はいっ!」
「ちゃんと一日三食食べるんだからね??」
「はいっ!………って…香織、お母さんみたい。」
「やっぱり??」
「「………プッ……」」
私達は二人でずっと笑っていた。
よかった…香織はやっぱり凄い。
私だったら絶対に同じこと思えない…。
やっぱり香織は私の憧れの友達…。
こんな友達を持てて、私は幸せ者だ…。
―――元気でね
香織の言葉を胸に、私と龍斗はアメリカへ。
私がまずアメリカで当たった壁は言葉の壁。
日本で教師がいってる英語は聞き取れたけど、実際に本場の英語を聞くと全然わからなかった。
ちょっとした単語が途切れ途切れ聞き取れれる程度だ。
速くて全然わからない。
それでいつも対応しているのは龍斗。
毎日毎日、龍斗に迷惑ばかりかけていた。
「美姫、こちらはMr.ビルバー。母さんが経営してるこのホテルの管理者だ。俺達はこれから、このホテルの最上階に住むからな。」
「み、美姫です!よろしくお願いします!」
私は深々と頭を下げた。ビルバーさんは背が高くてもう50代くらいのおじさんだ。
「アナタガ美姫デスカ??龍斗のオヨメサンデスネ!
ワタシハ、マイク・ビルバーデス。
コチラコソ、ヨロシクオネガイシマス。」
片言だけど、日本語をはなしている。
私はそれに驚いた。