家に帰るまでずっと胸がドキドキと鳴っていて、初めてみる春日くんの姿が頭の中をぐるぐると回っていた。
「どうしたの里湖。すっごい不細工な顔しちゃって。」
次の日の朝、友達が私に言った。
「ちょっと色々あって寝付けなくて…。」
そんなことを話していた私のところに春日くんがやって来た。
「市村さん、傘ありがとう。」
「あ、春日くん。風邪ひかなくてよかったね。」
春日くんはいつもと変わらなくて、昨日見た光景が嘘みたいだった。
「何、今のちょーカッコいい!!いいなぁ里湖、春日くんと話せて。」
春日くんは人気者でモテモテで、勉強もできる。いつも春日くんの周りには女の子がたくさんいる。私はまだ恋をしたことがないから、そんな女の子たちが羨ましい。
「市村〜今日バイト入れられちゃってさ、明日と図書当番かわってくんない?」
「うん、いいよ〜。」
放課後、私はいつものように図書室に行った。放課後はたいてい人が来ない。だから授業で出た課題をすませたりする。
「貸し出しお願いします。」
私は珍しく来た貸し出しに対応して、また課題に戻った。
「市村さんじゃん。」
顔をあげると今度は春日くんがいた。
「今日って尾崎じゃなかったっけ?」
「バイトだから変わったの。それより…何だかなぁ。春日くん、昨日泣いてたのに普通なんだもん。」
私は春日くんに言った。普通すぎる春日くんが心配だったからだ。
「泣いてないよ。」
春日くんが言った。
「雨に濡れてたからそう見えただけでしょ。」
私は首を振った。
「春日くんは泣いてたよ。でもいいんじゃないのかな、たまには泣いたって。春日くんいっつも笑ってるから。」
そのとき、春日くんが嬉しそうに笑ったのを覚えている。
「市村さんいい人だね。もしかして俺のこと好き?」
冗談みたいに春日くんは言った。
「うん、そうかもしれないね。」
私は自分でも驚く返事を返していた。