「七海、帰るぞ」
…やっぱり。
案の定、バイトを終え社員通用口から外に出ると、流星が昨日と同じ場所で待っていた。
「…帰るぞって、約束してないんだけど。てか…買い物したかったのに…」
レジで急な欠員が出てしまったため、田嶋さんが言っていた通り忙しかった。
「何だよ?」
「いや…別に…」
だからなのか、疲れて流星に反論する気にもならない。
はぁ…
明日の朝ごはんの食パン、今日も買えなかった。
「疲れてんだろ?」
「!」
俯いていると、流星の手がぽんっと頭に触れた。
「何か食べて帰るか?」
わしゃわしゃと、流星の大きな手が髪を撫でる。
ドキン。
ドキン。
「い…いいです!」
男の人にそんなことをされたのは生まれて初めてで、何故かドキドキしてしまう。
「ガキが遠慮すんな」
「が…ガキじゃないし!」
怒った口調で言い返したが、ドキドキし過ぎて顔を上げることができない。
「ガキだろ?まだ。…まぁ、いい。帰るか」
頭を撫でていた大きな手が、今度は背中をぽんっと叩いた。
そして昨日と同じようにタクシーを停め、ほぼ無理矢理タクシーに乗せられた。