そして、誰にも気づかれないように小さく舌打ちする。


どうしたんだろう。


雨宮くんの機嫌が悪くなることはほとんどないから、不機嫌な表情をするのはめずらしい。


「……雨宮くん?」


おそるおそる話しかけてみるが、雨宮くんはくるっと背中を向けて、私と久保さんのほうを見ようとしない。


疑問に思う私に、久保さんがささやいた。


「あの男の子、梨沙ちゃんの知り合い?」


久保さんの言う『あの男の子』は、雨宮くんのことだろう。


「あー……同じクラスの男子です」


電車を待っている他の人たちの前で『彼氏です』とは言いづらくて、そう言ってしまった。