なぜ、この不気味な絵を『素晴らしい絵』だと思うのだろう。


疑問を抱く私に、お母さんがまるで真剣な表情を向けていたのが嘘のような笑顔を見せる。


「梨沙、この絵を素晴らしいと思わないの? まったく、梨沙ってばわかってないね。絵画に興味を持ったら、この絵の素晴らしさがわかるわよ」


悪かったね、私が絵画に興味持ってなくて。


絵画と触れ合う機会がなかったから、いくらお母さんが素晴らしいと思う絵を見てもきれいとは思えないの。


お母さんこそわかってないじゃん。


小さく息を吐いたタイミングで、久保さんがこの絵についての説明をしてくれた。


「この絵は『水月夜』という名前です。好き嫌いがはっきり分かれる絵でして、この絵を悪い方向で受け止める人には災いをもたらすかもしれないと言われているんです」


この絵のタイトルが『水月夜』?


ありえない。


絵の中に水と月の要素が全然ないもん。


夜の要素はなくもないけど。


「へぇ。『水月夜』っていうタイトル、この絵にピッタリね」