自分の友人らしき人物が山の中で血まみれになって死んだのだとしたら、今朝見た絵の風景も現実で起こってしまうのではないか。


おそらく千尋はそう考えただろう。


私が血まみれになるのを防ぐために、自分を犠牲にするなんて。


千尋はなんて優しい子なんだろう。


私のために犠牲にならなくてもいいのに。


そう思うと、じわっと目から涙が出てくる。


恐ろしい絵を見た千尋が、私を守るために自分を犠牲にして更衣室に閉じ込められた。


自分のことよりも友達のことを優先的に考える彼女に感謝の思いがつのる。


「ありがとう、千尋。私のために私を守ってくれるなんて。嬉しいよ」


ニコッと微笑むと、千尋は顔を赤らめてボソボソと消え入るような声で「友達を守るために当然のことをしただけだから……」とつぶやいた。


私に褒められて恥ずかしいのかな。


小さく笑って立ちあがり、座っている千尋に手を伸ばす。


「……帰ろうか、千尋」


「うん……」


迷うことなく私の手に自分の手を重ねて立ちあがる千尋。