あぁ、そんな名前の人、小学生のときにいたな。


数年前に住んでいた家の近所に、久保という名前の家族がいたことを思い出した。


近所だったのは中学に入る前までで、久保さん一家は遠くの街に引っ越したんだっけ。


数年も近い場所に住んでいたから、顔を知らないわけがないのに、まさか忘れてしまうとは。


「ごめんなさい! 勝手にお母さんの浮気相手なんて言っちゃって」


私の『浮気相手?』という発言が失礼な発言だったことに気づき、慌てて男性に頭をさげて謝る。


なんてバカなこと言っちゃったんだろう。


お母さんがお父さんに隠れて浮気するわけがないのに、どうしてお母さんを疑ったんだろう。


どうして久保さんだとすぐに気づけなかったんだろう。


そう思いながらギュッと目をつぶると、頭上から声が降ってきた。


「謝らなくていいよ。梨沙ちゃんが俺のこと覚えてなくて当然だもんね」


急に“ちゃん”づけで呼んだよ、久保さん。


どんなふうに呼べばいいか聞かずに“ちゃん”づけで私を呼んだ人は、はじめてだ。