でも、友達が更衣室に閉じ込められて困ってるんだから、誰もいなくても借りなくてはならない。


「女子更衣室の鍵、借りまーす……」


“女子更衣室”と書かれた鍵をそっと持ちだし、誰もいないのに借りることを告げた。


当然私の言葉に返事する人がいないので、言葉はすぐ空気にかき消された。


職員室の静かな空気に耐えられなくなり、急いで職員室を出て早歩きで女子更衣室に向かう。


職員室を離れてどんどん奥のほうへ行くとあたりが暗くなっていき、薄気味悪い。


一秒でも早く暗い場所から離れたい。


その思いがあったのか、薄気味悪い空間はわずか十数秒でなくなった。


ほっとひと安心する心の中の自分をスルーして、女子更衣室の前までスピードを落とさず歩く。


やがて視界に女子更衣室が大きく映り、そのドアを軽くノックした。


コンコン。


すると、すぐにドンドンドンと強いノック音が聞こえたので、本当に千尋はこの中にいるんだな、と思った。


待っててね、千尋。すぐに助けてあげるから。