そんなことを考えながら歩いていると、なぜか千尋がピタッと足を止めた。


「どうしたの?」


「どうしたの、じゃないよ! 私の家がこの路地入ってすぐにあるから別れなきゃなって話したじゃん。もう、梨沙は本当に話を聞かないことあるよね」


ため息混じりに呆れた口調で言葉を返す千尋。


そう言われたらそうだな。


誰かと会話してるときには普通に返事しておいて、我に返ったらなにを話していたかわからなくなることはある。


そのたびに『あぁ、私ってバカだな』と思う。


今も思う。


友達が話してたことがまったくわからなくなるなんて、マヌケ以外のなにものでもないよ。


心の中でため息をつきながらも笑顔で対応する。


「そうだったね、ごめんね。じゃあ、また明日ね」


「うん、じゃあね」


純粋な笑顔で手を振ってくれる千尋に手を振り返し、千尋の姿が見えなくなるまで見送る。


路地の中へと千尋の姿が消えていったタイミングで息を吐きだし、くるっと向きを変えて家のある方向へ足を進めた。


私の家は千尋の家から100メートル行った先にある。