開会宣言もなかったフェスティバルは、やはり閉会宣言もないまま曖昧に終了し、館内は急にからんとし出した。
閉館まで30分あまりのフードコート。
しずかな座席に対して、店舗の奥は閉店準備に忙しない。
『俺、挨拶してから帰るから、ひーちゃんはフードコートで待ってて。アイス食べて帰ろうよ』
そう言われて、一日中貴時を待っていた緋咲は、疲労でややむくんだ脚を軽やかにはずませて、人気アイスクリーム店の前までやってきたのだった。
「ひーちゃんはヨーグルト系にした方がいいよ」
メニューボードの前で腕組みしていた緋咲の頭上で声がした。
「お疲れ様。思ったより早かったね」
「イステーブル片付けたら終わりだからね。で、どれにする? この『ヨーグルト』って書いてるやつ以外はミルクベースだからやめた方がいいよ。牛乳嫌いでしょ?」
ストロベリー、ブルーベリー、オレンジ。
貴時のアドバイスにより、アイスクリームの選択ではなく、フルーツソースの選択になった。
「じゃあブルーベリーにする」
「すみません」
貴時が声をかけると、ドリンクマシーン付近を拭いていた店員がわずかに眉を寄せた。
「ブルーベリーヨーグルトとキャラメル」
「あ、キャラメルおいしそう!」
「ミルクベースだからひーちゃんには無理だって」
「ふたつで432円です」
店員がふたりのやり取りを斬って捨てるように金額を伝えた。
緋咲がバッグからお財布を取り出す前に、貴時が一万円札をトレイに乗せる。
「あ、ちょっと待って。細かいのが……」
小銭を確認する緋咲のお財布を貴時が手で抑えた。
「いらないよ」
「そんなわけにいかないでしょ、未成年」
「俺は今日しっかり働いて報酬を頂いてます」
ポケットに無造作に突っ込まれた封筒を貴時は軽く叩いた。
「ずっと待っててくれたんだし、ごちそうするよ」
「生意気~~~!!」
「9568円のお返しです」
ふたたびやり取りを遮って店員がお釣りを渡す。
それを貴時が財布にしまうのを待って、すぐにアイスクリームが手渡された。
「ありがとうございましたー」
「はい。ブルーベリーヨーグルト」
勝ち誇ったような笑顔にむくれても、「はやく。溶けるよ」と促されて受け取った。
「……いただきます」