指導対局は、一回に7人で一時間。
終局すれば少し感想戦をして終了。
時間がくれば途中でも終了となる。
通常の対局では上位者が駒の出し入れをして、お互い順番に並べていくのだけど、人数も増えたし、時間的な関係もあって、参加者とスタッフがあらかじめ並べておいてのスタートとなった。

「こんにちは。よろしくお願いします」

集合時間には遅刻したものの、指導対局には間に合った貴時は、順番に駒落ちを確認し挨拶をして対局を始めた。
参加したのは県内のアマチュア高段者や将棋部の学生が多く、あまり詳しくない手筋について質問され、内心ドキドキすることもある。
中には将来プロを目指したいという小学生もいた。

プロ棋士になった人は後悔などしていないし、奨励会員もほとんどがそうだろう。
けれど、同じ道を子どもたちに勧めるかと聞かれたら、多くの人が「薦めない」と答える。
プロ棋士は将棋を好きでなければなれない。
好きなだけではなれない。
そして、なれなかったときのリスクは高い。

結局曖昧に「頑張ってね」と声をかける貴時は祈るだけだ。
何かを懸命に求めたことは、きっと無駄ではないはずだ、と。
それは、まだ何も実を結んでいない貴時自身をも励ます言葉だった。

『大切なものは少ない方がいいよ』
『たくさんだとこぼれちゃうって』

その少ない大切なものさえ、掴めるのかどうかわからないのだ。