思い出話に花を咲かせていられるのなんてほんと15分。
私たちの家は、もう目前だった。

「じゃ、また明日な!!」
「うん、またね!」

隣合っている家なのに、"またね"なんて言うのもちょっと不思議だけど。

「ただいま。」
「おかえりなさい。美紀、早く台所、手伝ってちょうだい。」
「はい。」

私のお父さんは、大手アプリ会社の社長でお母さんもお父さんもとっても厳しい。
たまに、お父さんが社長とかいいよねーなんて言われるけど、実際娘なんかになってみたら、しんどいの一言でしかない。私からしたら、ごく普通の一般的な家に生まれたかったと思ってしまう。

「今日も、生徒会だったの?」
「そう。予算決めしたの。」

すぐさま着替えを済ませて、お母さんの隣で料理を始めた。
お母さんは昔、某高級レストランのシェフとして働いていた。料理の腕は本当に自慢したいくらいだけど、

「ちょっと、それ切り方違うわよ。ちゃんと正しい順番で切ってちょうだい。」

なんて言われたら、嫌気がさしてしまう。

「文化祭で盛り上がるのもいいけど、勉強しっかりしてちょうだいよ。」
「わかってるよ、お母さん。ちゃんとやる。」
「ならいいけど。」

勉強だって、欠かさず毎日やっている。その日の復習、次の日の予習。それだけでも一日の勉強時間は二時間半を超えているというのに、テスト前になると、ご飯、トイレ、お風呂など最低限のこと以外は勉強に当てられる。他のことをしている時間はどこにもない。

「あとは、煮るだけだからいいわよ。勉強してきなさい。」
「はい。」

部屋に入り、机に突っ伏す。

「はあ。」

もしもこんな家の風景を見てまだ、社長の娘がいいなんて言う人がいるのならとんだ物好きだ。遊びに行く時間だってほとんどない。月に二回、あるかないかだ。

「勉強しよ。」

勉強している時が一番何も考えずに済んだ。私の脳は既に勉強という悪魔に支配されているのかもしれない。