「……もちろん、自分の世界を描くのは好き。
自分にしか見えない色を表現するのは楽しいし、他の人の世界が見たいって気持ちもすごくわかる。
だから、外では自分の世界を描くことにしてる。

でも、たまには普通の、ただこの目に映る、普通の色で描きたい時もある。
全く見えない色で、デタラメに描きたい時もある。
そういうのは、家でだけ描く。
このスズランは、本当は俺の世界では全体的に淡い水色なんだけど」



でも、ピンクで描きたかった。


セイジはそう言って、描きかけのキャンバスを指でなぞった。



そうなんだ…。


そういうことも、あるんだ。



私が昔、セイジの真似をしてオレンジのガーベラを想像して描いたように。


セイジも、見えないものを描くことがあるんだ。



「……見えないものを描くのは、難しい?」


「うん。最初は、全然上手くいかなかった。
俺の世界を描くときは何も言われないけど、ただ見えた世界と、想像の世界を描くと怒られた。
だから、そういうのはこっそり描くのが癖になった。
今は家では自由に描けるから、いいけど…」



……『怒られた』?


無表情で、けれどどこか寂しそうに語るセイジの言葉に、少しだけ引っかかりを覚える。