上手くなくていい。


そう言われるだけで、心がスッと軽くなる。




足取り軽くアトリエに向かって、私の描きかけのキャンバスを掻っ攫うように手に取り、アトリエに出る。


眩しくて思わず目を閉じたけれど、心地の良い空間だ。



「セイジは今、何描いてるの?」


「スズラン。これだよ」



セイジの指差す方には、白くて小さな花を付けたスズランが置いてあった。


くるんと丸くて可愛い。



セイジの絵を覗くと、その可愛さはそのままに、少しだけ淡いピンク色が付け足されていた。




「セイジのスズランは、白にちょっとだけピンクが入ってるんだ?」


「……あんまり変わらないなって思った?」


「セイジの絵は、いっつも違う色で描いてるイメージだったけど。あんまり変わらないやつもあるんだな〜って」


「結構あるよ。そのままの色の時。
学校では描かないけど」


「どうして?」


「『成宮くんの絵』は違うから。
みんなが期待してるのは、そのままの色じゃないから」


「え………」




全く予想していなかった答えに、思わずセイジの顔を見る。


……驚いた。すごく。



セイジは……周りの目なんて、気にしてないと思ってた。


いつも自由で、いつも好きに描いている。


そう思ってた。



けど、本当は違う?


本当は、みんなの期待に応えて、わざといつもは自分の世界だけを描いていたの?